デジャヴなヒール
「あの召使いの娘にも履かせてみよう。」
王子様が言った。
使いの者が私の前にやってきて、片方だけのガラスの靴を足元に置いた。
<そうです!私が昨晩あなたと踊った娘です!>
王子様、見ててね、さぁ、このガラスの靴がピッタリと私の足に・・・
・・・・・足に、、、、あし、、、、え、えぃ!・・・おりゃ、おりゃ・・・・・・・・・・入らない・・・・!?・・・・なんで〜〜??
無理やりぎゅうぎゅうやってみるも、私の足が靴に入らない・・・
現在、夕方の4時。
家中にこき使われて一日中立ちっぱなしの私の足はむくんでいた。
何とか入れようと必死だが、もう諦めなよ、的な空気が流れる。
「・・・・この娘も違うようです。」
ちょ、ちょっと待ってよ!
「いえ、あの、足がむくんでて、あれ〜おかしいなぁ・・?えへへ・・
あの、朝とか来てもらったら絶対入ると思うんです!今ちょっとむくんでて・・・」
もういいって。という顔で音楽室の壁の肖像画みたいな髪型の使いの人が足元の靴を持って行ってしまった。
一応、可能性として召使いの女にも声をかけた王子様だったが、そんなわけないか・・とでも言いたげな顔をしていた。
そんなわけありありなんですけど?なぜ、昨晩踊った女性の顔を覚えていない・・・??と心で叫んだ。
なぜかそこでは声が出なかった。
継母と義姉達がほくそえむ。だいどんでん返しのはずが、だいどんでんだ・・・。
あー、うちに回って来たのが夕方じゃなくて午前中だったらよかったのに!っていうか、私がガラスの靴の落とし主なのよーーー!
-------------------------
デジダル時計は8:50を示している。
一瞬ハッとしたが、大丈夫、今日は休みだ。
なんか、シンデレラになってる夢だったとうっすら思い起こしながら、今日が休みで嬉しい気持ちがごちゃ混ぜで、いかにも寝起きな思考だ。
休みにしちゃ、起きるのが早いと思いながらも、休みでテンションがやや上がってしまい脳が活性し始めて、寝ようにも寝れそうにないので起きることにした。
せっかく早起きしたから買い物に出かけることにした。
最近特に買い物らしい買い物をしていないし、街へ出たい気分が高まった。デパートの人混みもたまには悪くない。
午前中から回れば、しっかり見て回れると思うと、逸る気持ちで興奮した。何を買うかも決まっていないが、女の子はそっちのほうがいいものに出逢えたりする。
ランチを食べる頃には、結構な数のショップを回ったが、今のところレースの付いた乙女チックなブラウスを買っただけ。
朝からやる気満々だっただけに、これだけでは帰れない。と物足りなく思った。無駄に買う必要もないのに。
午後のコースは、ひたすらショップを順番に回るだけだが、これが案外労働だ。気になるものが見つかると、値段とどこのフロアのどのショップだったかをインプットしながら回る。これならさっきの店のほうがいい、これならこっちのほうが勝ち、と査定しながら・・
吟味に吟味を重ねるか、よっぽど一目惚れした場合にのみレジへの道が開かれる。
なんだかんだ、結構買った。帰って開けるのが次の楽しみになる・・・
休日でお洒落をしたので、華奢なサンダルは見た目はかわいいが足が痛い・・・。今日は結構歩いた。
腕時計をみると午後4時だった。
そろそろ帰るつもりで出口から歩き出す。その途中、何気なく覗いた通りの店で、素敵なパンプスを見つけてしまった。
欲しくて欲しくてたまらなくなった。これが運命の出逢いってやつだ。
物でも何でも「出逢い」だと私は信じている。
そんなに高くないし・・・この色持ってないし・・・今季は靴はまだ一足も買ってないし・・・もうすぐボーナス出るし・・・・買って後悔するよりも、買わないで後悔するほうがヤダ!!!
・・・運命とはいえ、一応慎重になるのが大人の女性である。
これだけ考えても欲しいということは、買えと言うこと。
納得しながらサイズを確認する。S〜Lの展開だった。私の足はMかLの微妙なところだ。Mを履いてみたらピッタリだが、ちょっと履くのに手助けがいる。Lは、すんなり立ったまま入る。何度も履き比べながら歩いてもみる。この感じだと、パンストやタイツなどを履いた時にMでは少し窮屈かもしれない。と思いLにすることにした。
翌朝、昨日買ったばかりの乙女ブラウスを着て、甘くなりすぎないよう紺のタイトスカートを合わせる。ついでにパンストもニューフェイス。わくわくしながら運命のパンプスも下ろす。
駅に向かうまでで、なんだかしっくり靴が合っていないのが気になった。パンストを履いているけど指に力を入れていないとスポッとかかとが抜けそうになる。
履けなくもないし、と自分に誤魔化しながら歩く。
改札までの階段で、登りきる寸前に脱げかけて落っこちそうになった・・・シンデレラじゃあるまいし、こんなところですっぽ抜けたら恥ずかしい。
勤め先の下着屋に着くまでに、やっぱりMにすればよかったと後悔した。後々よく考えたら、昨日、半日歩き回って私の足はむくんでいたに違いない。
運命の出逢いが、午前中ならよかったのに・・と心で嘆いた。
休憩時間に椅子に座って足の爪先をピコピコと動かし、ストレッチをした。
次なる運命の出逢いのために、せいぜい今のうちから備えておかねば・・・。
女の子って楽しいけど、面倒くさい。
お告げでもあればいいのに・・なんて、都合のいいことを考える。