a reason
雨の中、傘も差さずに信号待ちをしている女性がいた。
傘を持っているというのに。
「どうしてだろう。」と疑問に思った。ゴミを出しに信号の前まで来ると、雨がきつくなってきた。女性のことが不思議に思えたが、急いでいたし、それよりも走ってすぐに家へ戻った。
私も傘を差さずに。
家のすぐ近くのゴミ捨て場にゴミを出しに来ただけで、傘は持っていなかったから。
雨は、夕方まで降り続いた。梅雨入りしたのに良い天気が続いて誤報かと疑いたいほどだったが、今日はやっと梅雨らしい天気となった。
晩御飯の支度をしていると、娘が学校から帰ってきた。
「ただいま。ママ、きょうね、アイちゃんち、おすし食べにお出かけするんだって!いーなー!」
羨ましいところ申し訳ないが、うちはもうポテトサラダと豚の生姜焼きで献立は順調に進んでいる。
「へぇ。だれかのお誕生日とか、何かお祝いなんじゃないの?」
「うーーん。しらないけど、おすし食べに行くから、より道しないで早く帰ってきなさいってママに言われたって言ってたよ。だから、きょうは、早く帰ったの。」
娘も一緒に早く帰ってきたのに、残念ながら我が家はお寿司ではない。
でも、そこまで気に留めている様子でもなかった。愛依ちゃんは早く帰らなくてはいけないけど、弥生はまだ遊びに行っていても構わないのに。そのへんが子供らしかった。
「やよいちゃん、お外まだ明るいし雨やんでるし、ごはんまで遊んでていいのよ。一応、傘は持っていきなさいね。」
ニコっと私に笑うと、駿くんちに行ってくる。と水玉模様の赤い傘を持って駆け足に飛んで行った。
来月のパパの誕生日はお寿司をとろうかと考えた。
後は、生姜ダレにつけた豚肉をフライパンで焼くだけ。
もうすぐ6時になる。窓を覗くと再び雨が降っていた。子供に傘を持たせておいて良かったと思った。
6時を少し回って、弥生が帰ってきたが、髪の毛から運動靴までびしょ濡れだった・・。水玉の赤い傘は閉じられてきちんとボタンがとまったままだ。
「・・・傘持ってるのに、どうして差さなかったの!?」
なぜなのか全く見当もつかない姿に驚いて、私は弥生に訊ねた。
「ふふ。これでもうきょうはおふろ入らなくていーい?
雨でシャワーしたの。お顔もごしごししたよ!」
そう言いながら、両手で顔をこすっている。
素朴に笑う娘の純粋な気持ちを叱る気にはなれなかった。
彼女の目的が目的なだけに、お風呂に入って温まらなければ風邪を引いてしまうということをどう説明したら良いものか考えあぐねた。
「あ〜きもちよかった!かさ、いらなかったね!」
そう言ってタオルで頭を拭いた。
私が知らないだけで、「傘を差さない理由」がそれぞれにあるのかもしれないと思った。
今朝の信号待ちで見かけた女性のその理由は、もっととんでもない理由なのかもしれない。
玄関で娘と見つめ合って笑った。
今日まで降るのをもったいぶっていたかのように、雨はまだやみそうにない。
今年の梅雨はスロースターターだ。