ピーチのススメ
淡白で軽薄な人間同士のやりとりのようで、案外、コンビニにも常連さんは結構いる。
客が、<あ、新しい店員かな。>とか、<今日もこいつか。>とか思ってるのと同じで、こちらも<来た、来た。>と馴染み(顔だけ)の客に思っていたりする。
OLで、晩御飯はコンビニ弁当とか、お菓子ばっかり買いにくる部屋着カップルとか。
日本人の食生活が危ういな。と目の当たりにしながらも、僕もお菓子が好きだし、カップラーメンはほぼ全クリしている。
僕のお気に入りは、大体平日の夜の10時頃にやってくるおじさんだ。
決まってゼリーを買う。
新商品が入ればそれらは必ずチェックしているが、白桃入りのがカタイ線だ。
「ピーチフルール」
ぴーちふるーる などとは程遠い風貌で、「白桃が入った西洋風の透き通った冷たいお菓子ですが、召し上がりになりますか。」て、確認したいくらいお固そうな感じなのだ。そのギャップがたまらない。
社会派雑誌とピーチフルールをレジに通す。
<これ読みながらゼリー食べるんかな?やっぱ今日もフルールだ・・>
レシートもきっちり持って帰る。
僕もそろそろ深夜のやつと交代だ。
週末の金曜日。今日は客が多い。暑いせいか、アイスやジュースや冷たいものがよく売れる。
9時30分頃にデザートの棚の整理をした。ピーチフルールが売り切れている。ピーチフルールだけではない。他のゼリーも売れて、かなりヘボいのしか残っていなかった。
10時を少しまわって、ゼリーのおじさんが来た。
見ないわけにはいかない。デザートコーナーで、唖然と立ち止まっているように見えた。しばらく見てから他の商品を見たりしながらくるくる店内を回る。何度かデザートの棚へ戻る。
まるで期待しているかのように。
まさか、フルールがそんな短時間に棚に並ぶまい・・・
仕方なく、アロエヨーグルトにしたようだ。
僕はレジには入れなかった。
夏休みだが、大学の補習授業に狩り出された。
2週間ほど、夏休み特別講師を招いての授業らしい。
目的もなくなんとなく経済を専攻したけど、将来どーなるんだろう・・
授業前で、学生のお喋りで講堂は騒がしかった。
前の入り口から講師らしき男の人が入ってきた。
エ!?
心臓が高鳴った。脈が速くなる・・・
トキトキトキトキトキトキ・・・・
・・・・・間違いない。ピーチフルールだ。
いや、正確には「ピーチフルールを毎晩のように買っているおじさん」だが、そんなことはどうでもいい。鼓動の高鳴りは僕だけだ。
「おもんねーな。」
「腹減ったな。」
友達が小声で僕に話しかける。
確かに、誰も聞いていない。結構お偉い先生らしいが、性格的には真面目すぎてユーモアのかけらもなくただ淡々と話すだけだ。
実に退屈な授業だと思う。・・・・・・・僕以外は。
「でも、ゼリー・・・・」
「え?ゼリー?なにが?」
「いや、なんでもない。」
あの人、あー見えて、毎日ゼリー食べてるんだぜ。週末は土日分に2個多めに買うからほんとに毎日なんだぜ。
言いたい。僕には、その先生が喋れば喋るほどピーチフルールを食べる姿が想像しがたくて、面白くてたまらなかった。
でも、言わなかった。
僕にしかわからないから。
ちょっと優越感を感じた。
昼飯は、校内の売店で買った。補習期間だけ開けているようだ。
デザートのコーナーで思わず「ピーチフルール」を探す。
ここには売っていない。
やっぱり僕だけの特権だ。